東京で創業125年! ガラスならではの「儚さ」を愛でる、廣田硝子のビールグラス&マルチタンブラー【生産者が語る】Vol.1
「生産者が語る」シリーズでは、「ANA FINDS」で取り扱う銘品と、その生産者を紹介していきます。今回は、東京で創業してから125年の歴史を持つ、老舗ガラスメーカー・廣田硝子にインタビュー。4代目代表取締役社長の廣田達朗さんに、ガラス食器の魅力や、ものづくりにおける哲学などについて伺いました。
今回、インタビューにご協力いただいた廣田硝子さん制作のANA FINDS限定商品は「大正浪漫 ひとくちビール 鱗柄 2個セット」と「大正浪漫 花蕾 格子柄 2個セット」
東京で最も歴史のある、ガラスメーカーとして
——まずは、廣田硝子の歴史について、教えてください。
廣田さん:私たち廣田硝子は、1899年(明治32年)から続くガラスメーカーです。もともとは食器ではなく、「ホヤ(ランプの火を覆うガラス製の筒のこと)」と呼ばれる石油ランプのガラスパーツを作っていました。
—— 創業当初から食器を作っていたわけではないということですね。
廣田さん:創業当時は、そもそも“ガラスの食器”というものが日本であまり流通していませんでした。あったとしても、それはほとんどが西洋発祥のもの。当時の日本において、ガラスは「食器のための素材」ではなかったと考えられます。今でこそ江戸切子を中心に、日本の工芸品としての人気も高まってきておりますが、廣田硝子が食器の製造を手がけるようになったのは、現在の錦糸町の地で1915年にガラスのコップを作り始めてからです。
—— それから100年以上経って、技術や人々の生活様式も大きく変わりました。そんな中で廣田硝子がずっと大事にし続けていることはありますか?
廣田さん:人の手が介在する「手作り」にこだわっているところですね。現在は多くの国内外のガラスメーカーで自動化が進んでいますが、廣田硝子では「人の感性に訴えかけるぬくもりのあるガラスを届けたい」という想いから、今でも職人がひとつひとつ手作業で作っております。
「割れてしまうもの」だからこそ、大切に使い続けられる
—— 125年にわたりガラスを作り続けてきた廣田硝子が考える、ガラス食器の魅力とはなんでしょうか。
廣田さん:日本でガラス食器の製造販売が流通してきた頃から現代まで、こんなにも透明な素材ってほとんど存在しません。もちろんプラスチック素材も透明ですが、紀元前から今に至るまで残っている天然素材で、ここまで透明なのはガラスだけなんですよ。そんな希少なものが暮らしの中にあると考えるとワクワクしませんか?
—— そう言われると、ガラスが急にロマンチックなものに感じてきました! 割れにくい素材だったらさらに良かったのに……(笑)。
廣田さん:現代の技術なら割れにくいガラスを作ることもできますが、私たちはあえてガラスが「割れるもの」であることを大事にしたいと考えております。「いつかは壊れてしまうかもしれないけれど、その繊細さや儚さも含めて楽しむ」というのも、ガラス食器の魅力のひとつだと考えているからです。ただ、うちのガラスは割と厚みのあるものが多いんですよ。
—— 確かに、廣田硝子のガラスは繊細な見た目から想像できないほど、手に持ったときにしっかりしていると感じます。少し厚みがあるのに、口当たりがなめらかで飲みやすいのも特徴ですね。
廣田さん:「割れてしまうこと」を前提としながらも、お客さまにはなるべく長く、たくさん使っていただきたい。そんな想いから、ガラスに少し厚みを持たせています。また、少し厚みがある方が、手に持った際に手仕事ならではの“ゆらぎ”やぬくもりをより感じていただけるのではないかと。
——あくまで「日常で使うもの」としてガラス食器を楽しんでもらいたい、という想いが込められているのですね。
廣田さん:そうですね。2016年頃、世界的な工業デザイナーの柳宗理さんが設立された「柳工業デザイン研究会」と一緒にお仕事をした際、器や生活道具の中に美を見出す「民藝(みんげい)」としての道具作りや、その背景や哲学に強く共感いたしました。廣田硝子のものづくりも、そうありたいと考えています。
「ANA FINDS」とのコラボ商品に込められた「用の美」と職人技
—— 「ANA FINDS」も、民藝運動の創始者、柳宗悦さんが提唱した「用の美(使われてこその機能的な美しさを有するもの)」という考え方には共感いたします。「ANA FINDS」で販売中の「大正浪漫 花蕾」や「大正浪漫 ひとくちビール 鱗柄」も、そういった想いから生まれた商品なのでしょうか?
廣田さん:「大正浪漫」のシリーズは、その名の通り大正時代に盛んだった技法「あぶり出し」を用いて作った商品です。「あぶり出し」は一般的な「絵付け」と異なり、模様を付けるための金型を使って温度を緻密にコントロールすることで、ガラスを作る過程で絵柄を浮かび上がらせる技法です。
この技法の再現に、私の父が1970年代から取り組み始めました。当時は日本のガラス産業の歴史が100年ほどしかなく、文献も少ないため、全国各地の職人に技法を尋ね歩いたそうです。膨大な時間と費用を費やして試行錯誤した結果、金型を再現することができたんです。今では、あぶり出し用の金型を作れる職人はおらず、現存しているのは11型のみですね。
—— そのお話を伺うと、この模様がさらに愛おしくなりますね。乳白色の模様が柔らかく浮かび上がる佇まいが素敵です。
廣田さん:「ANA FINDS」で販売中の「大正浪漫 花蕾」や「大正浪漫 ひとくちビール 鱗柄」に使用されている柄は、もともとあった「大正浪漫」シリーズの中からバイヤーさんに選んでいただきました。どちらも「ANA FINDS」限定の商品です。飲みものだけでなく、お菓子やフルーツを入れたり、花をいけたりと自由に楽しんでもらえたらうれしいですね。
ガラス食器作りの“炎”を、いつまでも燃やし続けていく
—— 最後に、廣田硝子が描く、日本のガラス食器作りの未来について教えてください。
廣田さん:最近では、さまざまなお店への卸販売やイベント出店を通して、お客さまから直接お声をいただく機会が増えました。そこで知りえたのは、お客さまの幅の広さ。それまで、こうした日本製の工芸ガラスに興味があるのは年配の方が中心だと考えていたのですが、実は20〜30代ぐらいの若い層にもガラスに興味がある方が結構多いことや、女性だけでなく男性のお客さまもガラス食器を楽しんでくださっていることに気づかされました。
—— SNSでも廣田硝子の魅力が広まっているのかもしれませんね。
廣田さん:そうだとうれしいですね。自分たちの想像を超えたところにいらっしゃる方々に対して、もっと積極的に、ガラス食器の魅力を伝えていきたいと常に考えています。ANAのような日本の企業が、伝統工芸の掘り起こしや、魅力の発信に協力してくださるのは、本当に心強いですね。
少し話が逸れてしまうかもしれませんが、ガラス工房というのは、窯の炎を24時間365日、常に燃やし続けています。一度その火を消してしまうと、再び1,300℃もの熱でガラス食器を製造するのが難しくなってしまうから。
「ガラス工房の火が消えるのは、廃業したときぐらい」とは、業界でしばしば耳にする言葉です。ガラス食器作りに対する情熱とその炎を、いつまでも変わることなく燃やし続けていきたいですね。
—— 「熱を絶やさず、燃やし続ける」ことは、何事においても大切な気がします。「ANA FINDS」も、廣田硝子のような日本各地で培われてきた技術や産業の魅力を、もっと多くの方に伝え続けられるよう頑張ります! 本日はありがとうございました。
写真:山﨑悠次
文:三浦希
編集:エクスライト、ヤスダツバサ(Number X)
記事で紹介した「大正浪漫 ひとくちビール 鱗柄 2個セット」と「大正浪漫 花蕾 格子柄 2個セット」は「ANAショッピング A-style」で販売中