柔道衣の端切れから生まれたバッグとは?三河木綿の伝統を大切に守る「sasicco」【生産者が語る】Vol.2
「生産者が語る」シリーズでは、「ANA FINDS」で取り扱う銘品と、その生産者を紹介していきます。今回は、愛知県三河地方で栽培された綿を原料とした生地「三河木綿(みかわもめん)」を使用した道衣(剣道・柔道・空手・合気道・居合の武道衣)を製造する株式会社タネイにインタビュー。常務取締役の中神裕介(写真:左)さんと「sasicco」ディレクター・中神友香さん(写真:右)に、タネイが守り続ける伝統や、カバン作りにかける思いを伺いました。
今回、インタビューにご協力いただいたsasiccoのANA FINDS別注商品は「sasicco スクエアトートM」「sasicco スクエアトートL」「sasicco スマホショルダー」「sasicco トート40」
職人さんの愛情と伝統の技がぎゅっと詰まったバッグ
——まずは、タネイの歴史ついて教えてください。
裕介さん:私たちは、大正10年に創業した道衣メーカーです。柔道衣や剣道衣、合気道衣に空手衣など、日本古来の武道に使われる道衣を作り続け、100年以上もの歴史を重ねてきました。愛知県の東部・豊川流域で織られた「三河木綿」で商品を製造しています。
——道衣には丈夫さが求められますが、そこには長い時間をかけて培ってきたタネイの技術がきっと詰まっているのですね。
裕介さん:大正10年の創業当初は、人の手で作られる「手刺し」で武道衣と「防火衣(ぼうかい)」に使用する生地を織っていました。特に、消防士のユニフォームには頑強な生地が必要でしたが、俗に言う「平織(ひらおり)」の生地では、火の粉によって穴が空いてしまうことがありました。
でも、タネイが当初から今も変わらず作り続けている「刺子織」の生地は、表面が凹凸で火の粉を通しにくいんです。
——元は実用性を考えて作られたものですが、立体的に交差する生地には表情が生まれてとても素敵ですね。まずは、タネイの「強み」について聞かせていただけますか?
裕介さん:やはり第一に挙げられるのは、愛知県三河地方で織られた生地である「三河木綿」を使っている点ですね。その製造過程にもこだわっていて、裁断から縫製、出荷に至るまで、すべてを自社で行っています。私たちは、タネイで働いてくれている製造スタッフの方々を「職人」と呼んでいるのですが、まさしく「職人」の方々による手作業によって、こだわりと愛情がたっぷり詰まった製品を生み出し続けているんです。
“もったいない”から生まれた、珠玉のアイテムたち
——「ANA FINDS」にもラインナップしている「sasicco」のカバンは、どんなものなのでしょうか?
友香さん:2007年2月にスタートしたブランド「sasicco」は、いわば “生まれるべくして生まれたものたち”なんです。
——生まれるべくして生まれたものたちですか。
友香さん:はい。そもそも武道衣を作るにあたって、生地の大きさに対してすべてのパーツがぴったりと収まって使いきれればベストなのですが、どうしても「端切れ」が出てしまうんですよね。
——たしかに、生地をきれいに使い切るのはなかなか難しそうです。
友香さん:すべて手作業で仕上げる当社の「三河木綿」の生地は、国内でも有数の厚みを持つもの。それを端切れとして捨ててしまうのは非常にもったいないなぁ、と。そんななか職人さんの一人が、お昼休みの自由時間中にこの端切れを使って、自分用のランチトートバッグを作っていたんです。それを見て、私や他の職人さんたちも「わぁ〜!いいですね、それ!」と盛り上がって、それが社長の目に留まり商品化されることになりました。これが「sasicco」の原点ともいえる出来事です。
——リサイクル的な観点で、いわば「もったいない」から生まれたブランドだったんですね。
友香さん:そうなんです。「sasicco トート40」を例に挙げれば、その「横長の生地を縦に積み上げたような形」は、端切れを利用して作るからこその形状なんです。
また、藍染や紺の生地は「原反布(製品になる前の布)」ごとに作られるもので、ひとつひとつに微細な色の差異が生まれます。それにより、道衣の身頃部分と襟部分の色が違ってしまう、なんてこともあり得るわけです。
——それは知りませんでした。私自身は剣道を20年ほど習ってきましたが、そういった色の差異がある剣道衣に出合ったことは一度もなかった気が……。
友香さん:ええ、そうだと思いますよ。色に差異があったら「製品」として成り立たないので、製造の過程でどの布とも色が合わない原反布を捨ててしまうことが日常的にありました。高い技術をもって作られたせっかくの布が、「色が合わない」——たったそれだけの理由で捨てられてしまう。そのような状況を改善したいという想いから生まれたのが、剣道衣の襟の生地を繋いで作った「sasicco トート40」なのです。
——なるほど。こうしてお話を伺うことで、より「sasicco」の魅力が伝わりますね。
友香さん:うれしいです。こんなふうに商品についてお話する機会はあまり多くないので、「ANA FINDS」を通してたくさんの方に魅力に気づいていただきたいですね。その点、「sasicco スマホショルダー」などは、ANAを利用する旅が好きな方に特にオススメです。
——たしかに、機内や旅先ではこういった肩掛けのバッグがあると便利ですよね。
友香さん:そうですよね。「スマホショルダー」と言うと、スマートフォンだけを入れられるような小さいものを頭に浮かべる方も少なくないと思うのですが、「sasicco スマホショルダー」は、スマートフォン以外のものも少しばかり入れられるようなゆとりのある大きさになっています。ハンカチやカードはもちろん、たとえば飛行機のチケットを入れるのにもきっと便利だと思います。
高い技術の“結晶”を通じて、伝統文化の魅力を伝え続けていく
——最後に、タネイとして、また「sasicco」として抱く、未来の展望について教えてください。
友香さん:まったく武道に携わったことがない方が、知らず知らずのうちに武道由来のものにちょっとだけ触れていた、なんていう未来が理想ですね。「sasicco」のアイテムは、そんな想いを込めて製造しています。「日本の伝統」を強く意識するのでもなく、あくまで自然なライフスタイルの中で日本の伝統文化をまとう。その先に、タネイだからこそできるものづくり、その魅力を知っていただけたら、それほどうれしいことはありません。
——強く意識するのでなく、あくまで自然な心持ちで、伝統的な製品を身にまとうということ。素晴らしい未来だと感じます。裕介さんは、いかがでしょうか?
裕介さん:やはり「タネイが作るアイテムを通じて、文化を伝えていく」ということを、今後もいっそう強く意識していきたいですね。巧みな技術をもって作られた、高品質な三河木綿刺し子織バッグたち。それらを通じて、日本武道の文化をこれからも伝え続けていけたらと思っています。国内においても希少な織機を使い、職人さんたちの高い技術力に支えられる三河木綿刺し子織バッグのクオリティを、ぜひとも「sasicco」のアイテムを通じてお楽しみいただきたいです。
——こうして直接お話を伺うことで見えてくる魅力が数多くあるのだと実感しました。次はきっと、「ANA FINDS」をお楽しみの皆さまにその魅力に触れていただく番ですね。本日はありがとうございました!
文:三浦希
編集:エクスライト、ヤスダツバサ(Number X)
記事で紹介したsasiccoのバッグとスマホショルダーは、「ANAショッピング A-style」で販売中